大阪は北区の茶屋町というところに、消防署がある。そこの敷地内にヘンテコな塔が建っているのだ。以前大阪に住んでいたことがあり、ずっと気になっていた。
(斎藤 充博)
この塔が気になる
以前から気になっていた塔、今回大阪に行く用事があるので改めて見に行った。
かなりビビッドな色使いだ。外側から微妙に中の構造が透けて見える感じも、面白い。どことなく僕らが子供の頃夢見ていた秘密基地、という気がする。
こういう用途不明なオブジェの数々、見れば見るほどワクワクして来る。
立地また良い
この建物がある「茶屋町」というところ、実は大阪屈指のオシャレスポットだ。この塔も梅田芸術劇場と毎日放送といった華やかな建物の中間にある。
消防士さんに教えてもらう
実は今回消防士さんに取材をお願いしている。説明してくれたのは消火隊の高津さんと、救助隊の真治さん。
ちなみに取材を依頼した時に「もしも出動があった場合、そっちが優先になっちゃいます。そこだけ了解お願いしますね!」と言われている。
前準備の段階からビリビリと現場感を感じた。「かっこいい!秘密基地!」なんてテンションではないのだ。
秘密基地は訓練塔
この塔は消防士の訓練に使うための建物だそうだ。僕は大阪にあるこの訓練塔が気になってしまったが、日本全国どの消防署にも似たような訓練設備はあるらしい。ただ、場所によっては独立した建物ではなくて、消防署の建物と一体化しているところもある。
たとえば、外側の青い壁にかかっている梯子、これは「梯子を使って高いところに登るための訓練」に使う。
梯子の長さは15メートル。消防救助技術を競い合う「全国大会」があり、その大会規格だそうだ。全国レベルだとこの高さを7秒くらいで登る。
梯子の隣には大きな目盛りがある。これは単純に地上からの高さ。そして目盛りは無数の足跡で汚れている。
「これは塔の上までロープを使って登る時に付く跡ですね」 事も無げに高津さんは解説するが、その「恐い事を当たり前にいう感」の迫力がすごい。
塔の中は訓練用のギミックでいっぱい
訓練塔には外からかかっている階段を使って登る事になる。なんだかまるっきりRPGのダンジョン攻略みたいだ。
上がると、外から見て気になっていた物たちがあった。
まずはこの赤白の円盤。これは放水訓練の的。円盤の上部には小さな穴が開いていて、そこにコヨリのようなものを通して固定する。
そしてその円盤部分に向かって放水、うまく当たればコヨリは破けて、円盤はひっくり返って 、白い方をこちらに向ける。
円盤の赤い面が炎が燃えているイメージ、白い面は鎮火のイメージである。
外から見えていて気になっていた板も、もちろん訓練装置の一つ。板に開けてある丸い穴の向こうに放水するためのものだそうだ。
こちらは一斗缶にセメントを詰めたもの。これも放水の的として使う。真っ正面から当てて、一斗缶が倒れればOK。
このセメント詰めの一斗缶、試しに持ってみたらものすごく重たい。僕がようやくギリギリ持っていられるくらいの重さだ。
「こんなの放水で倒すの大変そうですね!」と言ってみたら、「逆にこのくらいの重さがないと、軽いものが的だと吹っ飛んでしまう」「放水は圧力がものすごくて、人間が正面から喰らったら失明する」 なんて返事が返ってきた。
こんなちょっとした道具でも、一つ一つが真剣である。
高い所は恐い
塔を登って高層階に。上の方に行くと訓練設備は少ない。しかしそのかわりに、高さを生かした訓練をするようになってくる。
例えば、この窓も訓練の一部だ。
もう、消防車がミニカーくらいにしか見えていない高さである。ここから見ると、あのハシゴが伸びてここまで来る、と言われてもなんだかリアリティを感じられない。
しかし高津さんは現実的だ。
最上階へ
一つづつ塔を登り、最上階に。登っている時に高津さんが「このくらいの高さになると、正直ちょっと恐くなってくる」と呟いたのが印象的だった。
しかし、よく考えてみると、たかだか地上から17メートルくらいの高さである。世の中にはもっと高い所から見下ろすことなんて、いくらでもあるじゃないか。
高津さんが「恐い」と思うのは、実際にこうした高さで起こる災害が念頭にあるからだろう。地上17メートルをロープやハシゴで登ることを考えると、僕も恐くなってきた。
最上階にはとりたてて訓練設備はない。ただ、周りを見渡すとこの塔より高い建物がたくさんあることに改めて気づく。人が住んでいる以上、災害の可能性はあるのだ。そんなことを考えた。
秘密基地は本当に秘密基地でした
途中で基地は訓練施設と聞いた。でも、この真剣に災害と戦う感じ、やっぱり僕のイメージの中の「基地」にかなり近い。
消防署とか消防士さんとか、やっぱりカッコいい。貴重な時間を頂いて取材させてもらったが、最終的には子供みたいな感想になってしまいました。
取材協力 大阪市北消防署