練炭はただの暖房器具なのに、物騒なイメージがついてまわってしまっている。 通販で買ったら、宅配便の品名に「練炭」と書いてあって、それを見た親に泣かれた、なんて話も聞くぐらいだ。
ここで僕がその真の価値を見極めるため、練炭の燃焼の一部始終を見つめ続けようと思う。
(加藤まさゆき)
雪が降ってゐる。
これじゃあ休日なのに、外出する気も起きない。 こんな日のために僕は、練炭を買っておいたのだ。
ホームセンターでバーベキュー用の炭を買うとき、いつも気になっていた、こいつ。 昔は暖房用に燃やしていた、と母から聞く。最近では、ちょっと物騒な用途に使われることもあるという。 練炭。 いずれにしろ、現代では日陰ものっぽいイメージであることに間違いはない。燃やしたこと無いけど、これってどんな燃え方をするんだろうか。
造形物として、見たことがない不思議さが、心を惹きつける。まるで、海外で知らない日用道具を見た時のような気持ちだ。 いつも使う七輪にはめてみたら、驚くぐらいすっぽりとはまった。
いざ点火!!
マッチ練炭、という商品名だったが、こいつはマッチ一本で点火できるのだという。点火したマッチを、上部の溝に置くと、点火する仕組みだとか。
すごいすごい! 花火のようにパチパチと音を立て、炎が広がっていった。1分ほどで炎が消え、あとにはほんわりと温かい練炭が残る。この中央の部分だけに、着火剤が仕込まれているんだそう。 火が全体に回るのに1時間ぐらいかかるとのことだったので、もう少し待ってみよう。
30分後
木炭だったら、とっくにいい火力になっている頃合いなのに、練炭ときたら、チリチリと一部だけ赤い火が走ったり、臭い煙が出たりするだけで、火力が頼もしい感じに全然ならない。
なんて始動性の悪い暖房なんだ。 電気に比べて、遅いうえに臭い。説明書では火をつけてしばらくは屋外に置いてください、と書いてあったけど、臭いのもその理由かもしれない。 もうしばらく置いてみよう。
クイズコーナー!!!
突然ですがここでクイズです。 上の写真と下の写真、大きく違うところが1か所だけあります。どこでしょう。
わかりましたか?? 正解はこれ。
というわけで、さっきの実験は途中で破棄し、1580円の練炭コンロを買いなおして、実験を再開したわけです。 さ、気を取り直して行ってみよう! まずは点火してから1時間後の様子。
1時間後
1時間でこれだけかい!という気もするが、七輪の時よりは、だいぶ回りが早い。さすが専用コンロだ。 そろそろ暖房器具として部屋に移してもいいだろう、ということで部屋に移してみた。
2時間後
かなり内部まで火が回っている。 ふたの中央からは、うすら青い炎が見えてきた。もう素手でふたに触ることなんて、到底できない。 ただ、練炭の下半分には、まだ火は回ってないらしく、触っても耳たぶをつまんだ時ぐらいに冷たい。
この火力、家庭用のガスコンロと比べるとどれぐらいなのか。お湯を沸かして実験してみることにした。
うちにある15年前のガスコンロで5分20秒だったから、まあ、普通のガスコンロの中火くらいと言えるのではないだろうか。
4時間後
図らずも地獄から熔岩を呼び出したような写真が撮れたので最初に載せたが、普通の写真を載せると、こう。
火は絶好調に燃え盛っている。 最初の写真は、内部の赤い熱光があまりに強いために周囲が暗く撮れた。それぐらいにすごい勢いだ。 しかし、部屋の中に練炭があるのにも慣れてきた。 もともと石油ストーブ育ちなので、火が室内にあるのに違和感はない。むしろ沸かしたお湯でいつでもコーヒーが飲めて快適だ。
悪くないぜ、練炭コンロライフ。
6時間後
相変わらず燃焼は好調だ。 灰になって全体が少し沈み、多少パワーダウンした感があるがそれでも充分だ。4時間ぐらいで燃え尽きてしまうと思っていたので嬉しい。 さて、ここで練炭が他の暖房器具に対して圧倒的に優れている点を紹介しよう。
練炭、そのおそるべき携帯性
練炭の優れている点は、その携帯性と独立性だ。外部エネルギーの供給を必要とせず、どこにでも行けるという点では、原子力空母とほぼ同じ性能を持つと言ってもいいのだろう。 さあ、雪の中でも、寒さを気にせず遊ぼう。
ご覧のとおりの、この性能。 電源施設が一切無いこの公園でも、あっというまに暖房器具を使用することができる。 すばらしい。これで霜焼けも怖くない。
そして、そろそろ点火から7時間が経つが、火の勢いはまだまだ盛ん。今夜はこの練炭で豚の角煮でも作ろう。そろそろ帰るか。
8時間後・別れは突然に……
靴下が濡れたので、帰宅して風呂に入り、豚肉を切って鍋に入れ、練炭の上に乗せようと思ったら、衝撃を受けた。
電気を消して見ても、火はどこにも残ってない。 ついさっきまで、あんなに元気に燃え盛っていたのに、突然燃え尽きてしまった。 うそだぁーー。うそだろぉーーー。
後に残るのは、きれいに孔が開いたまま、燃え尽きた灰のみである。まだ何か伝える点があるとすれば灰の塊がふわふわではなく、シャクシャクとした質感だったことぐらいだろうか。
こうして僕の練炭と過ごす一日は幕を閉じた さようなら練炭。温かい1日をありがとう。
練炭の燃焼時間は、約8時間
以上、練炭の燃焼を見つめ続けた1日のレポートだ。 多少長くなったが、練炭は楽しく優れた暖房器具だったことが伝わればいいと思う。 ところで、この練炭と練炭コンロという器具の形が、何とも言えず良い。 素朴な丸い穴があいている形が土器みたいでかわいいのに、溶岩のような熱光を放つ意外性が心を打つ。芸術的な写真が何枚も撮れた。 もし機会があれば、鑑賞物の一環として、これを買うのも悪くないと思う。