古代のアイロンを「火のし」という。 電気の無い時代には、鉄の容器に炭火を入れて、アイロンの代わりにしていたのだ。 さて先日、48時間の七輪生活をやったのだが、そのとき使った鍋が、厚みといい重みといい、火のしにしてくれと言わんばかりの造形だった。 というわけで、さっそく炭火を投入した。
(加藤まさゆき)
メイド・イン・フランスの高級鍋が、「火のし」に似ている
これはソースパン、という種類の鍋らしい。 昔、大学の恩師にもらったものだ。
先生が、「僕は料理と縁を切ることにしたんだ。誰か欲しい奴はいないかね」と言うので、もらった。 高級なのはいいが、重くて使いづらいので、主に来客時の盛り付け容器として使っている。 ちなみに、先生がなぜ料理と縁を切ったのかは、今でも分からない。
そして、鍋を洗いながらふと気付いた。 これ、前に博物館で見た「火のし」にそっくりだ。 火のし、とは昔のアイロンだ。ずっしりとした鉄のひしゃくみたいなのに、炭火を入れて使う。 この鍋の厚み、重さ、底の真っ平ら加減。火のしの為に生まれてきたとしか思えない。
というわけで、今日はこいつをアイロンとして使ってみたい。
まずはぞうきんからトライ
まずは、ごく控えめに炭を入れて、試してみる。 実験台は、古いシャツを切り裂いて作った雑巾だ。ほどよくシワシワにシワがついているが、どうだろう。
全然シワが伸びない
ダメだ。温度が低すぎるのだろうか。 鍋のずっしり感は、アイロンの比にならないのに。 試しに霧吹きを吹いてからかけてみると、アイロンのときのようにシューー!とならない。こりゃ温度が低いな。 ちょっと火力を増してみよう。
ここへきて実力を発揮する、火のし
増強版、さっきとうって変わって良好なシワ伸びである。 柄が細くて体重をかけにくいが、当たればきっちり伸びる。形が尖ってないので、完璧では無いが、ぞうきんぐらいなら楽勝だ。
さあ、次はワイシャツにかけてみよう。 ちょうど手元に、皺くちゃのワイシャツが一枚ある。
サバイバル術としてのアイロンがけ
電気を使わないので、もはや場所を選ばずにアイロンがけをすることができる。 極限状態でアイロンがけをするスポーツ、「エクストリーム・アイロニング」が一時話題となったが、この作業も、ある意味ではそれに当たるか。いや、電気を使ってない分、僕が一歩先を行っているかも知れない。
僕はできるだけ手早く丁寧に、近所の人に見つかる前にアイロンがけを進めた。
このかっこうで街中を歩いていたら、職務質問されること間違い無しだろう。 霧吹きをズボンにひっかけるのは、美容師さんの真似をしてみたのだが、むしろ状況を悪化させている。
もう二度とこんな格好をするのはやめよう。
最後にアイロンプリントに挑戦
気を取り直して、まずはキャラデザイン。 この鍋はひそかにフランス製なので、フランスをイメージしたキャラ、「スミビ・デ・ノッシェル」と、和風キャラの「火のし侍」をデザインした。
さてこれに色を塗って、アイロンプリント紙に印刷。 実はアイロンプリントでTシャツを作るのは初めてなので、大変緊張した。
そして炭火の準備の方も完璧。 ラストに備えて、めいっぱい焚いてある。
さあ、あとは思う存分プレスするだけだ!
綿密な段取りが功を奏して、アイロンプリントはあっさりとTシャツにくっついた。古代のアイロン「火のし」でも、現代のアイロンと完全に同等の能力を持つと言えるだろう。 むしろ電源不要な分、火のしの方が上と言えるかもしれない。 いつか大震災が起き、人々がシワシワの服を着るしかない状態になったら、僕は火のしボランティアとして被災地に赴き、人々の服のシワを伸ばすボランティアをやりたいと思う。
おまけ 素材集1 スミビ・デ・ノッシェル 素材集2 火のし侍