ついに超能力を目撃!?

「インターネットとかよく分からない」ということで、いきなり取材拒否されてしまった超能力たこ焼き屋。

でも、せっかくここまで来たんだから、そう簡単に引き下がるワケにはいきません。iPhoneでデイリーポータルＺのサイトを見せながら「こういうことをやっているサイトで取材をしたい」ということを説明することに。

一生懸命サイトの説明をしたことが功を奏して心をゆるしてくれたのか、もしくは「コイツはただのバカで、特に悪意はないだろう」と思ってくれたのか。

とにかくなんとか取材のオッケーをもらうことが出来ました。

「まずは普通の状態で食べてみて」

さっそく出されたたこ焼きを食べてみると、普通に美味しい！　この手のお店って、基本の味からどーかしてるケースも少なくないんですが、このたこ焼きなら普段から食べてもいいレベルです。

さてさて、この味が超能力で変わるってどういうことなんでしょうか!?

「じゃあ、味を変えるよ」

すると、たこ焼きの上で指をパチンと一回鳴らすおっちゃん。

「はい、変わった」

え、そんな簡単なの？　もしかして、ものすごくやる気ないですか!?

「コレであっさり味になったから」

「どう、分かった？」

ここで「全然分からないよ！」って答えちゃうと、取材が終わってしまうおそれがあるので、とりあえずやんわりとオブラートに包んだ返事を。

--えーっと、えーっと、なんとなくあっさり味になったような気がしなくもなくもないような……。

「まあ、味覚って人それぞれだからね。カレーとか辛い料理が好きな人は味覚がバカになっちゃってて分からないこともあるし」

あ、カレー大好き。そうか、味覚がもうバカになっちゃってるのかな、そういうことなのかな？

「それじゃ、もうちょっと分かりやすいので……今度はクリーミーな味にするから」

といって、再び指を鳴らすおっちゃん。

なんとなく、なんとなーくですが、たこ焼きの中身のてろりとした部分の舌触りがよりクリーミーに、そしてクリームシチューっぽい味になったような……。

気のせいなのか、本当に超能力なのか、はたまたボクの頭がおかしくなっちゃっただけなのか!?

「まあ、微妙な変化だから分からないって人もいるけど、大体九割くらいの人は変わったって分かるっていうけどね」

超能力に興味はあるものの、全面的に信じているワケでもないのですが、この超能力たこ焼き屋、変なおっちゃんがやっている変なお店……というだけでは片付けられないなにかがあるのかもしれません。

とりあえずここは、なんらかの作用で味が変わった（ように感じる？）という前提で、色々と話を聞いてみることにしました。

ピラミッドパワー＜ハンドパワー＜言霊！

--どうしてこういうお店をやろうと思ったんですか？

「もともとは大学生の頃、友達がこういう研究をしてたのね」

大学で研究!?　この超能力たこ焼き、意外にも学術的な裏付けがあるのかな……と思いきや。

「ピラミッドには、ミイラを長期間保存したり、花を枯れにくくしたりといった不思議な力があるんだけど、それを応用して食べ物の味が変えられないかなって試してみたら出来たんだよね。でも、ピラミッドパワーだと味が変わるまでに一週間くらいかかっちゃうの。それだとあんまり実用的じゃないでしょ」

--そ、そうですねぇ。

「それから色々研究した結果、ハンドパワーを使えばもっと早く味を変えることが出来るって分かったの」

--はあ、ハンドパワーというとあの、Mr.マリックみたいな。

「うーん、あれは手品だから……。とにかくハンドパワーだとピラミッドよりは早く味が変えられるんだけど、それでも15分くらいかかっちゃうのね。これがすぐに変えられたら商売になるのにな……ってずっと思ってたんだけど、なかなか上手く行かなくて」

--その間はどんな仕事をされてたんですか。

「ずっと日本髪の髪結いをやってたの」

「でも和式の結婚式を挙げる人って段々減っていってるし、若い人の数も減ってるでしょ。だから先細りだなーとは思っていて。そんなある日、ラーメンを食べながら、なんの気なしに『あっさり味になれ』っていったら、ホントに一瞬でそう味が変わってね、よく言霊（ことだま）っていうけど、言葉にはパワーが宿っていて、それで味を変えることに成功したんだよ。言葉をいうだけだからこりゃ楽ちんだなーって……」

なんか、ピラミッドパワー、ハンドパワー、言霊って、研究が進むごとに、どんどん理屈がいい加減になっている気が……。そんなボクの疑いの目を敏感に感じ取ったのか、おっちゃんはある本を持ち出してきた。

「ほらほら、この本を読むと音楽や言葉が物質に影響を与えるっていうのがよく分かるんだよ。クラッシクを聴かせた水から作った氷はこんなにキレイな結晶を作るのに……」

「ほら、ヘヴィーメタルを聴かせた氷の結晶はこんな汚くなっちゃうの。やっぱりドカドカうるさくって、ギター壊したり、悪魔とかいってる音楽だから、こんなになっちゃうんだよね」

おっちゃん的ヘヴィーメタルの解釈はどうかと思いますが、こういう研究があるっていうのは聞いたことありますね。ちなみにヘヴィーメタルの結晶と、「バカヤロー」っていいながら作った氷の結晶はすごくよく似ているらしいです。へーっ、へーっ。

ま、とにかくおっちゃん的には「言葉で氷の結晶の形が変化するのなら、味が変化するのも当然」という理屈らしいです。

--それでお店を出すことにしたと……、それにしても、味が変わる食べ物屋さんをやるに当たって、なんでたこ焼きを選んだんですか。

「いや、別になんでもよかったんだけど……。最初はこの店でも、たい焼きとかクレープとか色々やってたからね。ひとりで切り盛りするのには限界があるんで、たこ焼きメインになっただけ」

いやあ、おっちゃんなりの理屈は通ってるんでしょうけど、話を聞けば聞くほど脳みそがジンジンしてきて、全然信用できなくなります。

……それでも、クリーミー味に変化したように感じたのは（一応）本当なんですが……。