コメは一度に大量に炊いた方がうまいと聞く。そこに科学的根拠はないようだが、たしかにそんな気がする。定食屋のごはんは大量に炊くからうまいのかもしれない。
では逆に、一粒ずつコメを炊いてみたらどうだろうと思い立った。
(榎並 紀行)
大量に炊くとうまいのは知ってる
おかずがまずい定食屋はよくあるが、ごはんがまずい定食屋というのはあまりないように思う。その秘訣はランチタイムの混雑をさばくための大量炊きにあるのではないかと僕は睨んだ。
しかし、知人の料理研究家によれば大量炊きがうまいというのは「気分的なもの」であって、科学的根拠はないらしい。そうか気分か。
そこで、1粒炊きである。「1粒ずつ炊き上げたコメ」という響きには、なんとなく職人が丹精こめた雰囲気が垣間見える。そういう店がじっさいにあれば一度は行ってみたいと思うし、たぶん雰囲気と職人のプレッシャーでおいしいと感じてしまうだろう。
タコ焼き機でひと粒炊きにチャレンジ
と、もっともらしいことを言っている時は単なる思いつきで始まった企画である可能性が高い。とはいえ、どうせならおいしく炊いて結果を残したいと思う。うちにある一粒炊きに最も適していそうな調理器具を探したところ、いいのがありましたよ。
うちの炊飯器だとだいたい1合炊き20分くらいであるが、一粒だとどれくらいが適当な時間なのかまったく見当がつかない。
とりあえず、水がすっかり蒸発したところでフタを取ってみた。
駄目だ、炊けてない。水分が足りずコメに浸透する前に蒸発してしまったのが原因だろう。なので今度は穴いっぱいに水を入れてみた。
手探りで何度か試すうち、1粒炊きに最適な時間は10分(100V-650Wのタコ焼き機の場合)、水の量は20mlという答えにたどり着いた。米のかたさ、水分、ふっくら加減ともに納得の出来栄えだ。
水加減と火を通す時間さえ注意すれば、1粒でもコメはちゃんと炊けることが分かった。せっかくなので1膳分ちゃんと炊いてみようか。
いつ終わるともしれない単調な作業。加えてお腹を満たしたら一気に睡魔が襲ってきて、最後のほうは手がすべって1つの穴に何粒か入れてしまったことを告白しておこう。
そんなこんなで1膳分のごはんが炊きあがったのは深夜1時すぎだった。
で、1粒ずつ炊いたごはんがうまいかと聞かれたら、まあべつに普通だと言うしかない。ただ、言うまでもなくその1膳の重みはケタ違い。
10時間以上もコメを炊いていると、うまいとかまずいとか、そんな俗っぽい欲望を超越した何かが睡魔とともにこみあげてくる。