できることなら、日本中どこに行くにも寝台列車に乗っていきたい。食べたり飲んだりしながらやがて寝てしまってもいいし、目が覚めたら目的地だ。こんな素敵な移動手段ってあるか。
何か遠方へ用事があるとき、無理にでも寝台列車を旅程に組み込んだりしていたが、最近はなかなかそんな用事がない。それにお金もなかなかかかる。
しかし寝台旅に最適な季節となった。こみあげる旅情を、どうしてくれよう。
その旅情を発散すべく、駅へと向かった。
(乙幡 啓子)
貴族の趣味のように
今日はこれらの寝台列車を順次見送り、“乗りたい欲”への せめてもの慰めにしたい。うなぎを煙で食うような話だと思ってくれていい。
できるだけ、自分が出発するかのように思いたいので、それらしく旅装を整え、「乗らない」ということ以外は普段の寝台列車の旅と同じようにして、家を出た。
果たして私は、入線してきた列車を見て、冷静でいられるのだろうか?!
冷から熱へ転換の一瞬とは
と、もっと感動していいはずなんだけど、妙に自分が冷静であることに気付く。ほら、寝台だよ、札幌行きだよ、ほらほら。
だから、自分がひとりこれに乗って、北の地へとひた走る、おっとビールを一杯・・・その良き夜を、いまいち想像できない。 このままお見送りはするけど、ねえ。
と、16時18分までは、思っていた。
ひとりで作り笑顔をして写したかったのに、なかなか通り過ぎようとしない。なんだ、恥ずかしいがまあ、しょうがないな・・・と思ってまた2階を見上げたら、やっと意味がわかった。発車の合図のあと―
こういう無言のやりとり、もし今日自分が乗客だったら気付かなかっただろう(と負け惜しみ)。非常にいいものを見た。