革ジャンが欲しかった。でも革は高い。 何か安い革でもないかなぁ。そう思っていた時に目についたのがイカだった。
他の革だったらば何年も使い込まなければ出てこない飴色の質感が買った時点ですでにある。あぁ、これだ。これで革ジャン作ろう。イカの革ジャン、イ革ジャンだ。
と、思って作ってみたらば妙なことになりました。
(尾張 由晃)
準備万端
イ革ジャン作りに必要そうな物を用意した。どれだけイカが必要になるか想像もつかなかったので問屋で5箱買ってきた。1箱30枚入りで150イカだ。
糸はイカそうめんを使おうとも思ったが強度が心配だったのでたこ糸を使用した。そうしてよかったと心から思う。
服を作るには生地を型紙の形に切り出す必要がある。けれど手元にあるのは小さなイカだ。なのでイカを縫い合わせ、まずはイカの生地を作る必要がある。
イカを縫うのは凄く大変
さて、どう縫おう。僕は洋裁の専門学校に通っていたので型紙の引き方は教わったがイカの縫い方は教わらなかった。こういう場合、やってみたらどうにかなるだろ。
以前記事(奥深き指ぬきの世界)で取り上げた指ぬきを使用。 イカを縫うのに使われるとは思いもしなかっただろう。
甘く見ていたがこれが大変だった。針は通るが抜くのが固い。力を込めてもびくともしない所もある。手じゃらちがあかないと歯で噛んで引いたら前歯が欠けた。これは策を講じねば。
パンチで事前に穴を開けておけばどうだろうと穴を開けるも穴が大きいし、厚くて挟めないところがあって駄目。キリでやったらバリッと裂けた。うにゃ。
なので革製品の穴開け道具を買ってきた。なんとその名はロータリーポンチ。ロータリーだけでもドギマギするのにその後に続くは大胆にもポンチ。
ちょっとどうかと思うネーミングだがちょうど良い大きさの穴がサクサクと開いていく。革製品向けはイカにも向いている。イカが革として使えることを示していると思う。
やっと二枚のイカとイカがくっついた。穴を開ける為の印をつけて、穴を開けて、糸を通す。一回縫うのに結構な手間がかかる。あー、これ一体いつ出来るんだろうか。
革ジャンじゃ、ない?
やっと前半分の半分。
ちょっとずつ作業を進めて二日かけてやっと出来たのが前半分の 左半身。革ジャンに見えるだろうか、どうだろう。僕にはアジの みりん干しのように見える。
まぁね、組み上がってない時点では服には見えないもんだよね。そうやって自分をごまかすが漂う失敗の香りにモチベーションが下がっていく。
イカの匂いは凄すぎる。
そうやってただでさえやる気が下がっている中で、やっと書くがイカが臭い。
皆さんご存じのあの香り。一枚二枚でなく、何十枚単位で匂いを発する。縫っては片付け、縫っては片付けを繰り返すがそれでも部屋に染みつくイカの匂い。
想像して欲しい。仕事が終り疲れて帰るのがイカの匂いの漂う部屋。一時は本当に家に帰るのが憂鬱だった。
ピントは合ってません。
さすれど縫わねばずっとこのままだ。縫って、縫って、縫った。
生地完成!
縫えたっ!!
縫えた!やっと出来た。途中でイカを60枚追加し、使ったイカは210イカ。とはいえ出来たのは生地だけで、これから縫い上げて服にせねばなりませぬ。
生地になればイカであろうと普通に服を作るのとそう変わりはない。型紙通りに切り出して、繋がる部分を縫っていく。
人生何事も経験だ
数年ぶりの服作り、ちゃんと縫えるか心配だったが予想外にすんなり縫えた。昔やったことは時が経っても自分の中に生きているんだな。
袖付けが一番心配だった。
7年前の僕へ服作り、頑張っていますか?結局デザイナーにはなれなかったけれど、その努力は7年後イカを縫う時に活かされます。なので頑張って下さい。
あの頃の未来に僕は立っていないことを確認した。
イ革ジャン完成!!
家に帰るとコイツが待ってる。
そんな自分探しの様相すら見せ始めたイ革ジャン作り。終盤は もうほとんど出しっぱなし。匂いにも慣れてきた。日々作り続け、 ついにコイツは完成した。
ドーン。
出来た。ついに出来た。作り始めて約一ヶ月、210枚のイカを使用したジャケットが完成した。予想以上に革ジャンらしい。
表面が白っぽいのは熟成でアミノ酸が出てきたためだろう。食べても健康に害はない。このイ革ジャンを早速着てみよう。