「まんじゅうに書き初めをしよう!」
正月に岐阜に帰省して、なにかイベントでもないかしら、とタウン誌をペラペラしていたところ、そんな一文が目にとまったのだ。
(text by 石川 大樹)
なぜまんじゅうなのか
書き初めはわかる。正月だから。しかし、なぜまんじゅうなのか。
「海女さんとはねつきしよう!」 「火口でおせちを食べよう!」 「金魚にお年玉をあげよう!」 「まんじゅうに書き初めをしよう!」
上の3つは僕が考えた全くのでたらめだが、それと並べても全く違和感がない。この突拍子のなさはなんだ。
さらにおどろくべきことに、このまんじゅう、地元の名物でもなんでもないのだ。
さあ、いよいよさっぱりわけがわからない。いったいどういうことなのか、行って確かめてきた。
農家へ
書き初めが行われるのは、岐阜県各務原市にある河川環境楽園。「河川環境」まで堅い感じにきて「楽園」とつづくギャップに驚かされるが、実態は大きな公園に淡水魚専門の水族館や観覧車などが併設されたレジャー施設だ。
一緒に行った友人によると、「以前、この近くに野犬の群れがいて、周囲を取り囲まれたことがある」そうである。正月早々アンハッピーな話だと思ったが、前日から降りつづく雪のせいか、この日は野犬はいなかった。
広い園内、書き初めはどこでやっているのだろう。係員の人にきいてみる。
「まんじゅうに書き初めっていうのを見てきたんですけど…」
「それなら農家でやってますから、農家の方にいってください。」
えっ、農家?一瞬、その辺の農家でやってるから訪ねていけ、ということかと思ってドッキリした。
がよく聞いてみるとそんなことはなくて、施設案内を見るとそこに「農家」の文字があった。
書き初めのあとは蒸し初め
すぐに農家は見つかった。川の向こうにポツンと立つ、古い日本式家屋。イメージしていたとおりの、まさに「農家」だ。
ふだんは古い建物と、古道具を展示している場所だそうだ。書き初め会場としてはかなり雰囲気があるぞ。
農家に入ってみると、土間にはもうもうと湯気を上げるせいろ。書き初めのあとはこれでまんじゅうを蒸して、食べさせてもらえるのだという。
書き初めのあとは蒸し初め。そしてまんじゅうの食べ初め。一挙に3つの初めが済ませられる、めでたくも効率的なイベントだ。これが2010年代の書き初めスタイルか。
堂々の一番乗り
書き初めの受付開始は9:45、スタートが10:00だったので、間に合うように急いできた。道中も軽く速歩きだったのだが、フタを開けてみればこうであった。
10時から一斉に書き初めが始まるのかと思いきや、10時に開場するだけの話であった。初めたい欲のから回り。
書き初めは描き初め
書き初めに使うのは、水彩画用の小さな筆に、墨の代わりに3色の食紅。テーブルの上には懐かしい黄色いバケツ型の水入れもあって、書き初めというよりは描き初めという感じ。
イラストや願い事、新年の抱負など自由に書いていいとのことだったので、まずはイラストを描いてみることに。
パレットを見ると、用意されているのは赤、黒、黄色の3色。明らかに寅年を意識したチョイス。ここでパンク精神を発揮してハチや踏切にしてもよかったのだが、持ち前の絵心のなさでどう書いていいのか皆目見当がつかなかったので、素直に虎を描く。
まんじゅうの皮が水分をよく吸うので、色はスムーズに染みていく。しかし皺が寄っているところは色が流れ込んでしまい、思わぬにじみになることも。
乾かせば重ね塗りもできそうだったので、まずは黄色で顔の輪郭を描く。
そして黒で縞や顔のパーツを書き入れていくのだが…。
どうも猫と虎の区別がついていない自分に途中で気づいたが、まあいいやの精神で完成。今年、新中学生になる皆さん、美術部に入ると将来このくらいの画力が身につくので入った方がいいですよ。
Z君のつもりで書き足したら、にじんでひどいことに!