食べもののパッケージの裏についている原材料や賞味期限の表示。あの中に、「名称」だとか「品名」だとかの項目がある。これまでぜんぜん意識していなかった項目だが、最近あることがあってから、がぜん興味が湧いてきた。今日はそんな名称に注目してみます。
(text by 石川 大樹)
名称が気になる
きっかけは、コンビニのカレーパンだ。夕方からの会議の前に軽食のつもりで買ったカレーパン、裏側にはこんなことが書かれていた。
油菓子!
僕はこのカレーパンを食事として食べてたのだが、見事に菓子宣言されてしまった。しかも油菓子って言葉はなんかすごいぞ。砂糖菓子が砂糖を固めたお菓子なら、油菓子はラードを固めたお菓子だろうか。字面からはそんな食べ物を想像してしまう単語だが、僕が今食べてる物に、その名前はついていた。
この名前があまりにショッキングだったので、スーパーに行っていろんな食品の名称を調べてみた。するとなんだか名称にも人間くささが見えてきて、おもしろかったのだ。
名称を人にたとえると
原材料や賞味期限と同じ欄に書かれている名称だから、その内容はかなりかっちりと、口うるさく法令で決まっているに違いない。人間にたとえるなら、58才公務員、厳格で、いちいち細かい性格のため部下にはちょっと嫌われている。そんなイメージではないだろうか。以下、彼のことを名称氏と呼ぼう。彼の仕事は「食品を分類して、わかりやすい名前を付けること」だ。
そんな先入観をもとに、名称氏の仕事ぶりを見ていきたい。
これはなんと言えばいいのだろう。カステラのような、輪切りにしたどら焼きのような、名前のわからないお菓子。素人にはなかなか分類しがたいお菓子だが、公務員として勤続35年を越える名称氏には、長年の業務で蓄積された経験がある。これに彼はなんと名付けるのか。
正解はこちら。
えー!
カステラとか和菓子かと思ったら、菓子。分類することをすっかりやめてしまった。「よくわかんないから、まあいいや、菓子で」。ふだんは厳格な彼だが、あきらめは意外と早かった。
名称はあきらめる
彼のあきらめの歴史はこれだけにとどまらない。じつは、いろんな食品でかなりの勢いであきらめまくっている。
完全に説明を放棄してしまった物もある。次の写真をどうぞ。
名称は他人の気持ちを汲んでくれない
堅そうに見えて、意外といい加減な奴だった名称氏(58・公務員)。しかもけっこうわがままで、ときに周囲の気持ちを考えずに我を通してしまうことがある。そんな例を見ていこう。
従来の健康食品の枠にとらわれず、オリジナリティで勝負していきたい、メーカーのそんな意気込みを感じるコピーだ。しかし、そんな意気込みも名称氏は一蹴してしまう。
健康食品として新しいかどうか以前に、菓子。もうなんというか、子供扱いだ。あるいはパワハラ。「おまえはどんなにがんばっても結局菓子なんだよ!」なんて理不尽に部下をしかりつける姿が目に浮かぶ。
いまどき乾パンって言われて連想するのは災害時用の缶詰くらいだ。さわやかなパッケージも台無し。
この商品に限らず、名称氏はどうも海外の食品/料理に冷たくあたる傾向にある。横文字が苦手なのか、あるいは海外旅行で苦い思い出でもあったのかもしれない。外国文化にきびしいようすを一気に見ていただこう。
インドカレーのお供に!僕たち、ナンです!
「ナンね。」(パンでしょ?って内心思ってる)
蒸しカステラでは、2つの特徴「中国」「蒸し」の両方を完全に黙殺している。和と、生菓子、どっちもあってない。それでも我を貫くかたくなさ。
そしてナン。さすがに見た目が全然違うので「パン」という名称にはできなかったようだが、それでも諦めきれずに括弧書きで「(パン)」と付け足している。すごい負けず嫌いぶりだ。