象の置物が2匹、狛犬のように並んだ入り口。重くて立派なドアーを、おそるおそる開ける。
「あのう、ランチ…って、終わっちゃいましたよね?」
スタッフは全員、異国の人であった。しかし日本語ペラペラな男性が、「イエ、イイデスヨー、ドウゾー」と、微笑んでくれた。
ランチはビュッフェで1000円だ。食べ放題メニューとは別に、通常メニューも別料金で頼める。
「あのう、チベタンティー(バター茶)も頼みたいんですが」
「ショクゴガ、イイデスカ? ショクゼン?」
「じゃあ、食後で……」
「ランチ、ココ、オ皿。スキナダケ、タベテクダサイネー」
パカ、と炊飯器のフタを開けられてしまった。たくさん食べないわけにいかない。
とりあえずビュッフェを食う。この日に出ていたのはチキンカレーと、小豆(?)のカレー。あとサラダやら、野菜料理やら、チベット風のパン(ナンより小さく丸く、ほんのり甘い)とか。美味し。
そしてついに、バター茶が運ばれてきた。
ものすごく意外な入れ物で出て来た。ゴージャスだ。
フタを開けると、こんな感じだ。大きさ的には、いわゆる日本茶の湯のみと同じくらい。
「コレ、オ茶ガ熱イカラ、フタヲトッタラ、下ノブブン、ゼンブ持ッテ、クチマデ運ンデ、飲ンデネ」
「は、はい……」
少しだけ、カップに直に触れてみた。確かに熱い、このままでは持てないだろう。
「あのう、現地のかたも、この入れ物で飲むんですか?」
「ソウデスヨ、チベットノ人、マグカップトカ、ツカワナイデス」
そうなの? と思いながら飲んでみる。
……濃い。濃いい。濃厚なお茶とバターと、ミルクの味。甘くなく、塩味。後味が苦い。
普段、甘いお茶ばかり飲んでいる身としては、この「塩味」が、ショッキングだった。駄目な人は、駄目かもしれない。例えば、「甘いお米のプディング」が、苦手な人が多いように。
「美味しい、というか、混乱する味だなあ…欧米人も、日本茶を飲むと、ホウレンソウの味がして困るって人が、いるらしいしなあ…」などと、悩みながら飲んでいるうちに、ひとつの考えが浮かんだ。
これ、お茶だと思わずに、「スープ」だと思って飲めばいいんじゃないのか。
すると抵抗感が無くなった。お茶風味、バタースープ、だ。
お茶としては受け入れにくいけれど、スープならOKだ。
「コレネ、チベットノオ茶ト塩デ、作ッテルンデスヨ」
暇な時間だったせいか、スタッフの人が相手をしてくれた。
「お茶受けって、普通は何を食べるんですか?」
「オチャウケ?」
「つまむもの、というか、お茶に合わせて食べるオヤツ、とか…」
「オ茶ダケ、デス。オ茶ダケ飲ミマス。チベットノヒト、コレヲ1ニチ、2、30ハイ飲ム。長イポットデ、持チ歩イテマスネ」
お茶だけなのか。確かにこれだけで暖まるし、カロリーもとれそうだ。
興味深そうに飲んでいたせいなのか、ビュッフェが余り物だったからなのか、お会計を300円、オマケしてくれた。親切でいい店だった。また行こう。 |