去年の暮れ、当サイトで小野さんが「ヤングめぐりで若さについて考える」という記事で、ヤングという言葉の線引きについて考察していらっしゃった。
しかしどうだろう。その線というのは小野さんが心の中で生み出した物語なのではないか? 小野さんは見えない敵と戦っていただけではないのか? そういった思いが僕を放さない。
そこで僕はヤングとは何かを科学的な視点で考察してみた。
(text by 藤原 浩一)
ヤング率
ヤング率という値がある。19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて活躍したイギリスの科学者トーマス・ヤング氏が考えたものだ。これは本当。
ヤング率の第一人者・ヤングさん
このヤングさんも「ヤングとは何か?」「何がヤングで何がヤングでないのか?」「おれはヤングって名乗っていいの?」ということにさんざん悩んだと思うのだが、その結果編み出したのがこのヤング率である。そしてこの過程はウソだ。
ここから再び本当。簡単に説明しよう。固体に力をかけると形が変わる。その形の変わりやすさ、つまり硬さの値を示そうとしたのがこのヤング率。
硬ければ硬いほどヤング率の数値が大きくなる。つまり、軟らかいより固い方がよりヤングなのである。直感的にも正しいといえそうだ。
ヤング率とは硬さを表した数値の一種
今回はこのヤング率を使って何がヤングで何がノットヤングなのかを調べたい。試験の方法はいくつかあるのだが、最も手軽な「曲げ試験」というのをやろうと思う。
曲げ試験とは下の図のように、板か棒のようなものを2点で支え、その中央に力を加えたときのたわみ具合からその物質のヤング率を算出するものだ。
ブリッジの中央に力をかけてたわませる
こんな説明よりも早く実践をしたい。この世のヤングの真実を明らかにしたい。気ばかりが焦る。
ヤング率と曲げ試験という武器を手にした僕の頭には既にあるものが浮かんでいた。逸る気持ちを抑えながら、僕はスーパーに行き、それを買ってくる。
ウィンナー
僕の頭に浮かんだあるものとはウインナーだった。理由は細くて長く、曲げ試験に適しているからだ。それ以外に他意はない。
また、ウインナーに力を加える方法は、家にあったポンカン(180g)を糸でぶら下げるというものにした。指で押して力を加えると、何グラムの力がかかっているのか、何ミリメートルたわんでいるのか分からないからだ。
その点、ポンカン―糸方式だと、加わる力は一定だし、糸は細いのでウインナーのたわみ具合がはっきりとわかる。ベストな方法である。
ガリレオ
試行錯誤の末、下の画像のような装置を用意した。この割りばしを支えにウインナーを曲げ試験かけていこうと思う。
この装置で測るのはウインナーを支える2点間の距離、ウインナーの直径、ウインナーのたわみ具合の3つだ。
この3つからウインナーのヤングさが自ずと姿を現すのである。
では結果をご覧ください。
(ウインナーはロールオーバーでたわみます。)
アルトバイエルン
ドイツっぽい響きのアルトバイエルン。日本人がウインナーを頭に思い浮かべると、ほとんどの人がこの色でこの大きさのものになるのではないだろうか。いわば標準的ウインナーだ。
少しだけたゆむ
アルトバイエルンのヤング率は 2.97×10^5(N/m^2)
今の時点では何とも言えないが、この標準的なウインナーのこのヤング率は果たして標準的だったりするのだろうか。
シャウエッセン
伊藤ハムがアルトバイエルンなら日本ハムはシャウエッセン。どちらも標準ウインナー。となると気になるのはどちらがよりヤングなのか。
アルトバイエルンと見た目はあまり変わらない
シャウエッセンのヤング率は 3.55×10^5(N/m^2)
比較するとこちらの方がヤング率は高い。モアヤングなのはシャウエッセンであった。
皮なしポークウィンナー
伊藤ハムの皮なしポークウインナー。根拠はないがヤングさはないように思える。先の2つに比べると形は小さめ。大きさはヤングと関係するのか?
ぐっと重みに耐える
皮なしポークウインナーのヤング率は 2.66×10^5(N/m^2)
標準と思われるアルトバイエルンよりヤングさが低め。とはいえ取り立てて差のある感じでもなかった。皮なし+ミニサイズで行って来いだったのか。
ポークビッツ
おなじみお弁当に入っていてうれしいポークビッツ。根拠はないが、かなりヤングな感じがする。
がんばれ
ポークビッツのヤング率は 1.38×10^5(N/m^2)
やっていて苦しい試験だったのだが、なんとか最後まで頑張ってくれた。結果は意外にも低い数値。つまりポークビッツはノットヤングだった。ウインナーの歴史が書き換えられたかもしれない。
今度は先ほどとは対照的に天を貫くほど長いウインナー(言い過ぎ)。パンにはさめば見事なホットドックのできあがり。ヤング率に期待ができる。
割り箸の距離を長くとったので大きくゆがむ
グルメドックのヤング率は 5.28×10^5(N/m^2)
これまでの中で一番高い数値だ。ポークビッツと比べるとおよそ4倍もヤングだ。大記録と言っていいだろう。
大きさでいうとポークビッツに近い。ただし中にはチーズが入っている。チーズの力はヤングにつながるのか。
チーズが出てきちゃったらどうしよう
チーズインのヤング率は 1.22×10^5(N/m^2)
見た目はそうでもなかったが数値的には最小。つまり最もノットヤングだ。ウインナー界の長老と言っても過言ではないかもしれない。足を向けて眠れない。
ここで少し異色のエントリー、フィッシュソーセージ。包装してあるビニールをはがすとかなり柔らかくて若々しさが感じられない。フニャフニャ。
あ〜あ
うす塩フィッシュソーセージのヤング率は ?×10^5(N/m^2)
ポンカンのぶらさがった糸をフィッシュソーセージの上にそっとのせると、そのまますり糸は抜けてしまった。ヤングさが足りなかったのだ。
もっと軽いおもりを使えば調べられたかもしれないが、今回は用意がなかったので「?」ということで。
他のものと違い、6本が寄り添いあうようにパックされていて高級な感じ。色も白っぽく、高貴ささえ漂う。ヤングとは言えない気がする…が。
力を受け流すかのようなアーチ
アンティエのヤング率は 4.16×10^5(N/m^2)
シャウエッセンを頭一つ抜いたヤングさ。なんなんだろう、予想が外れてばかりだ。
圧倒的な太さと短さを誇る、大砲の弾のようなフランクフルト。パッケージの絵は既にヤングとかノットヤングとかを超越している。
重みを感じないかのようなたくましさ
フランクフルトのヤング率は 1.71×10^5(N/m^2)
ポークビッツより少しヤング率が高いくらいだ。かなりノットヤングな部類に入ると思われる。ヤングさはないが、ウインナー界の頼れるアニキという感じだ。
まとめ
今回の試験結果をまとめたのが以下のグラフだ。テストに出そうだから覚えておこう。
大番狂わせが連続だった今回のまとめグラフ
アルトバイエルンとシャウエッセンが標準的な値におさまっていることは予想通りと言えるが、まさかポークビッツがこれほどヤングさに欠けるとは驚きである。やはり人間の直観とは当てにならないものだ。
そしてグラフにしてみると分かるが、何がヤングで何がヤングでないかを示す明確なラインは存在しない。ヤングに境界はないのだ。
ヤングとは相対的な価値である
宇宙から地球を見ても国境線が見えないように、ヤングの線引きも人間が作り出したものでしかない。僕は言いたかったことはそういうことだ。
人は必ずヤングさを失って行くのかもしれない。しかしその流れは「ここまでがヤング、ここから先はヤングじゃない」というような線引きをすることができない。ヤングは1本の大河のようになめらかにつながっているのだ。
ヤングを通じてすべての人間がつながりあっていることを感じられれば、と僕は願う。