奥の手を使います
白い紙の上で撮影すると背景色がうまく白にならないので、こうなったらプリントした画像から、対象物の部分だけ切り抜いてしまうことにします。なんか背景がどうのこうのとかそんなところ拘って前に進まないのはどうしようもないと思うので。
それはもう罪悪感とか一切なく、さくさくっと切り抜いて本物とならべて写真を撮りました。これでやったぜ、と喜こべるはずだったのですが、いざ撮影してみるとなんだか色がくすんでしまってます。ほんともう、ぱっと見うまくいってるようなのに、いまいち色が合ってないのが悔しいです。
もしかしたら、被写体がいけなかったのかもしれません。ちょっと、タバコ以外のものでもやってみましょう。
冷蔵庫にあったビールを撮影してプリント・切抜きしてみました。しかし明らかに色が赤くなってます。色以外はうまくいってると思うのですが。
マヨネーズなんかもやってみましたが、これはまるでナポリタンのようになってしまいました。マヨネーズを撮影して印刷するとナポリタンになって出てくるマジック、ということにしたらどうかと思いましたが、それではなんのことやらわかりません。
どうも、色が赤くなる傾向があるようです。ここまでやってきた過程で薄々感づいているんですが、ひょっとして部屋の照明がいけないってことはないでしょうか。
最初に照明を疑ってた時点でここにも気づいとけよ、と自己嫌悪に陥るのはやめにしましょう。現実は現実として受け止めて、もう一度照明と戦う必要がありそうです。
照明を変えてみよう
たぶん電球の下で撮影してはだめです。たとえデジカメのホワイトバランスを電球用に設定していても、結果として赤くなっているんでやっぱりだめなんでしょう。なので、ちょっと照明を変えてみることにしました。
蛍光灯なら白っぽい光なので色合いが変わりにくいんじゃないかと思って台所にやってきました。撮影に没頭している僕としてはスタジオを移動したという気持ちです。しかし台所の生活感あふれるこの見た目が、スタジオというイメージとはかけ離れていて、僕の高揚した気分を削いでいきます。
気を取り直して、さきほどのマヨネーズの続きです。撮影してプリントして切り抜いて・・・とやっていくと、さすが蛍光灯、さっきよりはいい色合いになりました。よしよし、もうちょっとなんとかすればCMのようなクオリティに達することが出来そうだ。
照明を変えることによってブレイクスルーが訪れた劇的な瞬間のはずなのですが、しかしここで、そんな僕の気持ちを踏みにじる事故が起きました。
印刷したマヨネーズを切り抜いていたら、切り抜いた余白の部分が本物のマヨネーズの上に落ちて、マヨネーズがべちゃっとなってしまいました。せっかく見栄えがいいようにしてたのに、台無しです。
まあしかし、元はといえば僕がただうっかりしていただけのことなので、これ自体は納得がいくというか、折り合いがつかないわけではありません。ただ、この事件をきっかけにして僕は疑問に思ってしまったのです。
はて、どうして僕は必死にマヨネーズを撮影しているのだろう。
日光の下ならどうか
マヨネーズの事件をきっかけにしてモチベーションを維持するのが困難になった僕は、気分を変えようと思い、太陽光の下で撮影してみることにしました。もしかしたら、蛍光灯のときよりも近い色合いを再現できるかもしれません。
ということで庭に出てきました。この庭で適当に撮影の対象を見つけてプリントしてみます。
対象なんてなんでもいいや、という感じで適当にそのへんにあった石を選びました。しかし、こうやって石の写真を撮ってプリンタで印刷とかしてると、ひょっとしてもの凄く石が大好きな人みたいに思われるんじゃないかと心配になってきます。
いや違うんです、そういう趣味の人もいるかもしれないですけど、僕はそういうんじゃないんです。心の中で自分への言い訳を繰り返しながら、石のプリントが終わるのを待ちます。
ほどなくして印刷が終わり、それをちょきちょき切り抜いて本物の隣に置いてみました。しかし、今度は色が明るくなりすぎてしまったようです。太陽光ならば蛍光灯よりも上手くいくに違いないと思ったんですが、これはこれで、日光特有の難しさがあるようです。
なんだか光が強すぎて色が白く飛んでいるみたいなので、日陰を作って撮影したりもしてみます。
あーだめだ。直射日光よりはだいぶ良くなったと思うのですが、でもやっぱり色が合いません。しかもまだまだ近い色とは言いがたい。ここまでいろいろやってきたのにこの遠さ、もうどうしたらいいんだ。
僕が途方に暮れながら部屋に戻ったとき、気がつくと無残に切り抜かれたたくさんの光沢紙が部屋の中に散乱していました。なんだこれは、僕はいままで何をしていたんだ。
このとき、僕は自分のやる気が一気にゼロになっていくのを感じつつありました。何度も何度もくじけそうになって、それでも負けずに頑張ってきましたが、もうそろそろ限界のようです。
色は気にしないでください
CMのクオリティを目指してやっていくうちに色が合う・合わないに終始してしまい、そして色は最後まで合いませんでした。しかし冷静になった今、これまで撮った写真を見直してみると、石のやつなんか何も知らないで見せられたらどっちが本物か見分けがつかないのかもしれません。 つまり、見る人が色のことを気にしなければ当初の目標は十分に達成できているんです。みなさん、色は気にしないでください。 こういう風に言ってごまかそうとしても何か虚しさが込み上げてくるのは、キャノンのCMが良く出来てるからです。