地下鉄を利用していると、通路の一部が変に中途半端なスペースになっているのに出くわす。一見何の役にも立たなそうな空間で、誰もそこへ足を踏み入れない。だけど妙に広い。ぼくはこのぽっかりと空いたスペースがなんだか好きだ。今回はこの空間を「ぽっかりスペース」と名付けてこれを鑑賞していこう。
(text by 大山 顕)
■これが「ぽっかりスペース」
上記のような説明ではなんのことか分からない御仁も多くいることと思う。しかし下の写真を見てもらえれば「ああ、これのことね」と分かるはずだ。
どうだろうか、この魅惑的なぽっかりスペースは。べつにどこへ通じるでもなく、ただそこにあるぽっかりと空いたスペース。地下鉄利用途中、こういうスペースを見かけるとなんともいえない気分になる。わくわくするような、やるせないような。みなさんも一度はそんな気分になったことがあるはずだ。あるよね。あってよ。
この写真を見ても何のことか分からないし、べつにどうも思わない方がいらっしゃったら、本記事はスキップしてください。今後このような写真しか出てきません。いつもすまん。
最初に紹介したぽっかりスペースは写真上でもまだ分かりやすいほうだが、上のぽっかり作品はなかなか伝わりづらい。これはただの通路の横にぽっかりと付随していたスペース。地下鉄通路にはもったいぜいたくな空間にぐっとくる。こういうのが好き。
写真で伝えるのが難しいぽっかり感だが、どうだろう。ぼくの写真の腕前のせいもあるかもしれない。ぽっかりスペースを上手にとれるようになるために今後も精進していきたいと思う。いずれはぽっかりスペースフォトグラファーの第一人者になりたい。
上記ぽっかりスペースはこういう空間の関係にある。点字ブロックがその空間を無視するように走っている様で、この空間がいかにぽっかりか察していただきたい。あと、凸面鏡に映ったその姿で、いかにぼくが一生懸命かも察していただきたい。
■ただのぽっかりではないらしいが
ぽっかりぽっかりとそのぽっかりぐあいを語ったが、実際にはうっかりぽっかりしてしまったわけではないらしい。
地下鉄の通路平面図をじっくり見るとぽっかり空間は出口階段の手前や改札の横などに多く発生している。これはおそらく強烈なラッシュ時や緊急時に利用者が避難する際にボトルネックとなる位置の手前に人がたまることができる空間を作っているのだと思われる。それが平時にはぽっかりとした風情を醸し出しているわけだ。
ただ、地下空間特有の事情でかぎりなくうっかりぽっかりに近いケースもあるように思う。
平面図をあらためて見てみると、地下鉄の空間というのは通路の幅が頻繁に変化し、折れ曲がっている。公共空間でこんなふうにカギ型になっているものはそうはない。同じ鉄道にしても地上を走る線の通路はこんなんじゃない。ビルの中の空間もこんな風にはなっていない。
地下を掘って作らなければならないので、構造上の問題やほかのインフラや先にできた地下鉄を避けなければならないことなどを考えねばならず、それがなんともRPGゲームのダンジョン風導線を作り上げたのだろう。
ああいうゲームの通路見るたびに「魔王とかってなんでこんなわざわざ分かりづらく作ったんだよ」って思っていたが、あれはインフラをよけなければならなかったのか。光ファイバーとか。共同溝とか。ごくろうだった、魔王。