「あそこ、出るらしいぜ」という類の噂がある。夏場によく聞く心霊系情報だ。そんな噂を聞くと自分が見たわけでもないのにびくびくしてしまう。果たしてそういった噂はどのように発生し、そして広まっていくのか。今回は積極的に噂を作り上げることでその成り立ちを体感したい。
(安藤 昌教)
本記事はホラー特集に参加しています
噂になりたい
ひとけのない交差点にぽっかり浮かぶ白い顔。閉店後の店内に飛び交うヒトダマ。そういう真偽のほどのよくわからない噂はさらなる噂を呼び、あっというまに人々の間に広まっていく。
今回はその噂の元を作ることで、実際に自分の周りで噂がどのように発生し、どれくらい広がっていくのかを確かめたい。
方法は簡単だ。白い顔して夜な夜な通りに立つのだ。そうしたらいつか「あの交差点、出るわよ」って噂になるに違いない。
だけど実行するにあたって場所の選定に手こずった。白い顔してむやみに道の脇にとか立っていたら驚いたドライバーが運転を誤って事故を起こしそうだ。それに近所のお店や家は風評被害に悩まされないだろうか。そんなことを考えていると、ある程度人通りがあってしかも他人の迷惑にならなさそうな場所がないのだ。
うちの店の前、以外には。
ということであっさりと場所は決まった。うちのお店の前には片側二車線の通りがあり夜中でもある程度の交通量があるが、歩道も広くドライバーを脅かさない程度の距離が保てる。遠くに夜景が見えるので、それを目当てに夜中に訪れるカップルたちもいる。噂になるには絶好の場所といえるだろう。ここで1週間夜な夜なお化けになろうと思う。
1日目
まずは営業が終わったあと30分くらい店の前に立ってみることにした。店の閉店時間が0時、片付けとかしてからなので0時半から午前1時くらいまでの間立っていたことになる。
手探りではじめてみたお化けだが、なんとも手持ち無沙汰だ。なにをしていいのかわからない。思惑通り前の道は深夜でも一定の交通量を保っているが、どうも僕の姿を確認して「きゃー」だの「ひー」だの言う声が聞こえてこないのだ。そう
たぶん見えていないのだ。
15分くらいしてから気づいて足元にアップライトを設置してみた。お化けといえば下からの照明だろう。これでずいぶんお化けらしく、また人目にも付きやすくなったと思う。明日からの下地ができたところで初日は終了。これを1週間も繰り返せば、もう町はお化けパニックだろう。うちの店は誰も寄り付かなくなるか、もしくは怖いもの見たさの人たちが集まってくるかどちらかだと思う。後者で軌道に乗ったらお化けまんじゅうとか売りたい。