勤務している会社の一室に、あやしい光を放つ機械が登場した。
指紋認証セキュリティだ。
急いでいる時にかぎって、私の焦りを見透かしたようになかなか認証してくれない。
今日もおかげで遅刻した。
くやしいので、指紋認証、略して指認(しにん)をだまくらかしてやりたいと思う。
指認と戦った日々をごらんください。
(text by 土屋 遊)
戦略をたてる
イヤたてない。
指紋認証の原理を調べるのは、今の時代、カンタンなことだ。だが私はあえて、デジタルで最先端な物体に真っ向勝負を挑むつもりだ。 私の脳ミソひとかたまりという、アナログな勝負だ。
1:指に顔
だます前に、指認の実力を試そうと思う。 指に顔があったら、指認も混乱するのではないだろうか。
ジャマがはいった。
いやジャマしてるのは私の方かもしれない。なにしろ勤務中なので、こうゆう事態は想定内だ。相手が後輩だった場合、ここは逆ギレして、ゴマかすに限る。
気をとりなおして……
2:黒塗り
黒塗りといえば高級車だ。
顔の次は、人質とともにいきなり高級指で指認を恐縮させてみようと思う。
2本の偽装指が認証されたことで、私はすっかり得意になっていた。
だがよく考えてみれば、指認は、指のカモフラージュをまんまと見抜いたワケで、"だまされた"のではなく"見抜いた"のだった。
しかしこの時点ではそれに気付くことなく、私は調子にのって次の作戦に燃えていた。
コピー大作戦だ。