沖縄には腕立て伏せをするマッチョなトカゲがいるという。どんなトカゲなのだろうか。筋トレ部としては見に行かないわけにはいかないだろうというわけで、夏休みの午後、トカゲを探して山へ入りました。
(安藤 昌教)
トカゲ研究の坂爪くん
今回トカゲ探しに付き合ってくれるのは大学生の坂爪くん。彼は卒業研究でトカゲの足の速さを研究しているのだという。世の中にはまだまだ調べるべき事象がたくさんあるのだ。バイクで颯爽と現れた坂爪くんは言葉すくなに僕に虫除けスプレーと軍手を貸してくれた。あと10歳若かったら、そして僕が女性だったらこの時点で惚れていた。
「それじゃ、行きましょうか」
坂爪くんに先導されていよいよ山へと入る。どうでもいいけど彼のつなぎがまた格好いいのだ。たぶん彼にとっては単なる作業着なのだろうけど、僕の一押しのTシャツよりも明らかに格好いい。明らかに着てる人の差だ。そして格好いい男性を素直に格好いいと言えるようになった僕は以前に比べて大人になった(かつてはくやしいので絶対に褒めなかった)。
まあそんなことどうでもいいので、山へ入りましょう。
森、一気に深まる 少し歩くだけで草木は僕たちの背丈のレベルを超えてくる。こちらに暮らす前、僕は沖縄って小さな島だと思っていた。ところが実際に暮らしてみると、町のすぐ近くまで底なしのジャングルが広がっていた。とても奥が深い。
森にはいろいろな生き物が生きている。見たことのない昆虫が群れを成していたり、でかいクモがきれいな巣を張っていたり。そんな周りのものにいちいち感動していると、一瞬の間に前を行く坂爪くんとの距離が開いてしまう。ここではぐれたらたぶん僕は帰られないだろうと思い必死でついていく。
森はどんどん深くなっていく。歩きながら坂爪くんに一番の懸案事項を尋ねてみた。
ハブ、いませんかね
「いると思います」
あ、やっぱり。だけど坂爪くんは特に臆することなくがしがしと進んでいく。かっこいい。反して僕は一歩ごとに腰が引けてゆく。そんな僕を励ますように坂爪くんは言う。「ハブって2回目までは咬まれても血清が効くらしいんですよ、だけど3回目咬まれるとだめっていいます」。
僕は一回咬まれるのも嫌なのに坂爪くんはすでにその先のことを考えているのだ。かっこいい。
いた!
さらに歩みを進めること10分。坂爪くんの足が止まった。ハブか。
「いましたよ、安藤さん。」
ハブですか。
「ほら、あそこ。見えますか。」
ハブなら見たくないですが。恐る恐る坂爪くんの指差す方向へと視線を移すと、そこには見事な緑色をしたトカゲが木にしがみついていた。ハブじゃなかった。これが今回探していた腕立て伏せをするトカゲ、オキナワキノボリトカゲなのだ。なんというか、すごくかわいいぞ。