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ロマンの木曜日
 
ちり紙でマツタケをつくりたい
わたしのなかの残像


マツタケのことがずっと気になっていた。
3月に行った、三重の秘宝館
あの空間では、見るものすべてが目と脳に飛び込んできて何もかも鮮烈だったが、今でも思い出すのは「ちり紙で作ったマツタケ」だ。
超越した意味不明っぷりに私は感動した。

こんなに心に残る作品を、私は今まで見たことがあっただろうか。ない。そして私もこんな芸術を、作ってみようと思ってしまったのだ。

(text by 土屋 遊



準備はやたらと周到

用意したのは、ちり紙とライター。
なぜなら、それ以外の情報がなかった。

感動に至るまでには失敗も多いだろう。
余裕を持って準備にとりかかる。


いつも探してるライター。家を漁ると意外な数があった
これだけあれば充分だろう

 

束ねてあぶる

作品を見本にして、ちり紙を束ねた。

「あぶりながら作った」

とあるので、指示通りライターであぶってみるが、何度やってもボウボウと炎があがる。

ちり紙がこんなにも燃えやすいものだとは初めて知った。

夏のバーベキューで、火をおこすのにいつも苦労しているが「あれはいったいなんだったのか」と腹立たしい。


何度も火事になりかけ……
ボワボワに開く灰の花

 

マツタケちり紙ハイ

なんの情報もなかった。

頭が悪いという自分の問題に目を背け、見本のせいにするのはずるい気もするが、「あぶりながら(形を)作った」という先入観にとらわれすぎた。炎でちり紙の繊維が溶け、まとまっていく様子をかってに思い描いていたのだ。

何枚も何本ものちり紙を灰にしてしまった。

その間、「なにをやってるんだ私は……」という思いが頭をよぎる。
なんなんだこの意味不明な行為は、バカバカしい、頭おかしいよ、と、自分で自分に逆ギレしつつも、しかしこれをやろうと思った人物の、なんと偉大なことかと感慨にもふける。マツタケちり紙ハイだ。

 

ついに出会えたような形状……
今度はまったく火がつかない。(あたりまえか)頑なマツタケ

思い出のちり紙焼

私の通った学校では、ストーブの上に、濡れたちり紙を置いて焼くのがなぜか流行っていたことがある。あの独特で妙な臭いは忘れられない。たしかにあれも意味がない行為だ。

「アレだ!あれか!」

と、ムダな確信をして、大量の紙を水で濡らして「濡れマツタケ」を作ってみた。ヤケクソとも言えるだろう。

今度は火が一向につかない。燃えるどころか臭いさえしない。

そうだ、一晩おいて、乾かせばいいんだ。

取り憑かれたように前向きだったが、いつになく早く寝たかったということもある。

頭が痛く、息苦しい。
呼吸はどんどん浅くなり、苦しくて横になるのも辛くなっていた。

大笑いしたときに喘息になったことがあるが、まさか……。

真剣に「救急車……」と思いつつ、なにもかもあきらめて寝た。

 


 

 
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