「お母さん、おかあさーん!」
「あ、おかえり」
「玄関の……何アレ? どうしたの?」
「ああ、お姉さんが送ってきたのよ…」
母の姉……私のおばは、戦後、アメリカにあこがれ、アメリカ行ってアメリカ人と結婚してアメリカ人になっちゃったという人だ。
「おばさんて……今、カリフォルニアに住んでるんだっけ?」
「そうよ」
よく箱を見ると、伝票にカリフォルニアの住所が書いてあった。
「おばさん、アメリカで何やってるんだっけ? 美容師なんだっけ?」
「そう、美容師」
「もう引退してるんだっけ?」
「ほぼ引退してるみたいね、昔はテリー・サバラスの、お気に入りだったらしいけど……『刑事コジャック』の俳優」
「その話、前に聞いたなあ……そんで思ったんだけど、あの俳優さ、スキンヘッドじゃない? ……あの頭髪のヘアメイクって何してたのかなーって、ナゾだったのよね」
「いや、髪の毛じゃなくて……ネイルケア? ネイルの美容師だったのよ、お姉さん」
「へー、今のネイルアートの走りみたいなもんか。しかしいきなりこんな…ロブスターかあ。西海岸からロブスター…」
「私への誕生日プレゼントだって。でも、兄弟みんなに送ってるみたいだけど。そして全員、困惑してるみたいだけど」
イケイケなアメリカのおばが、思いつきで送ってきた贈り物、ロブスター6匹。
嬉しい。気持ちアゲアゲだ。しかし、正月に家族が集まるので消費出来るからいいけれど、一人暮らしだったら心底困るだろうなあ……と思いながら眺めてしまった。
「……で、これ、どうするの」
「どうしたらいいのか、よく分からないのよねえ…」
「わかんないよねえ…」
「要するにエビなのよね」
「エビですね」
「だからとりあえず、沸騰したお湯に塩入れて、茹でようかと思うんだけど」
そう言うと母は、ロブスターの身体を、ごりごりタワシで洗いはじめた。
タ、タワシ!? 雑じゃない!?
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